2025年12月24日水曜日

【SS】サンタクロース【星使いティンクル・ライツ】

 

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ジングルベル♪

「さんた、って何?」

宿題をしている洋介の横で、おとなしく図書館で借りた本を読んでいたライツはどうしてもそれが気になるようだ。
ちらりと横を見た洋介の目に、両手で本を何とか開いているライツの姿があった。

その本に描かれていたのは、赤い服を着たおなじみの存在。

「サンタクロースのこと?」

洋介の問に、ライツはこくりと頷いた。

さて、どうしようか。
一瞬、何を言うべきか迷ったがそもそもクリスマスの風習をライツは知らないのだろう。

これは、辞書的な意味を答えるべきだ。洋介はそう判断して、ライツに知っている限りの話をした。
「へぇ~」
ライツの瑠璃色の目が輝く。彼女の好奇心を満たすぐらいの話はできたようだ、と洋介は安堵した。

ライツの目が再び本に戻ったので、宿題をしようかと思ったがどうも彼女の様子がおかしい。
本を足で踏みつける。行儀が悪いから注意しようかな、と洋介が思った瞬間、ライツの体が淡く輝く。

「おっ」

光がはじけた。
そこには、見覚えのある服装をしたライツがいた。

「ライツはサンタだよ」

サンタクロースの服装をしたライツが、部屋の中を飛び回る。
「似合う似合う」
「へへへ」
洋介が手を叩いて賞賛する。ライツは嬉しそうに飛び回った。

「あとはトナカイとソリが欲しいなぁ」

ライツの呟きが聞こえ、洋介は考え込んだ。
(プレゼントで用意してもいいけど……ライツのサイズのソリ? それでトナカイ?)

洋介は宿題以上に悩ましい問題を抱えることになったのだった。

【本編はこちらから】


【SS】夢のかたまり【サマー・メモリーズ】

 

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生クリームはたっぷりと

ケーキには夢がつまっている。

「確かに」
ポスターに書かれたコピーに、あたしは素直に頷いた。思い出すのは、小学生の頃だ。

エプロンをつけて、気分はパティシエ。
ボウルいっぱいに泡立てた生クリームをスポンジに塗りたくった。均等に、なんて考えもなくて、とにかくベタベタとやっていった結果、とても分厚い生クリームの層ができあがった。
今考えると不格好だけど、あたしは嬉しくてしかたのなかった。食べることしか知らなかったケーキが自分の目の前で形になっていくんだ。

湧き上がる万能感。まさしくそれが子どもにとっての「夢」なんだろうな、と思う。

そんなに楽しかったのに。

「なんで、あまり作ってないのかな?」

思い出せるのは、その一回だ。なんで、あたしはあれ以降作らなかったのか。

「うわっ」

一気に血の気が引いた。思い出したのは、お母さんの鬼の形相だ。
確か、あたしは自分の顔だけじゃ無く、キッチン中を生クリームだらけにしたのだ。そのあと、泣きながら掃除したことという余計な思い出まで蘇ってしまった。

「ははは」
苦笑い。
「でも、今年はまた挑戦してみるのもいいかな?」

わくわくしてきた。今と昔では夢も違うけど。
今のあたしの夢をつめこんだケーキをつくるのも、悪くないんじゃないかな?

【本編はこちらから】


2025年12月23日火曜日

【SS】吸血鬼の晩餐【魔王無き世の英雄譚】

 

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「そして、彼はゆっくりと振り返って、こう言うんです」

「な、なかなか骨のあるお話でしたわね」

談話室をふらふらと歩いていたら、聞き覚えのある声がきこえてきた。エリクが振り返ると、そこにはよく知った顔があった。

「フィオナ。セラもここにいたのか」

背後から声をかけると、ビクッと金色の髪が揺れた。

「あ、あら。エリクさん。ご機嫌麗しゅう」

振り返ったフィオナがいつものように挨拶しようとしている。しかし、その蒼い目は見事に泳いでいた。
そこに動揺を感じ取ったエリクは、軽く会釈したのちにセラの方へと向き直る。

「どうしたんだ、こいつ」

エリクの指摘にセラは思わず、くすくすと笑い出した。

「フィオナさん、わたしが話したお話が怖かったようで」
「こ、怖くなどありません。どうして、わたくしがそのような作り話を怖れなければいけませんの?」

エリクが驚くほどの早口で、フィオナは弁明する。言えば言うほど、自分の首を絞めているようなものだが。
「そんなに怖いのか。少し興味あるな」
エリクは空いている席に座ってセラを見る。横から「だから怖くなど」というフィオナの声が聞こえてくるが、エリクはあえて無視をした。

プライドの高いフィオナのことだ。何を言っても彼女を傷つける。
それはそれとして、こんなにもフィオナを動揺させる話とやらに興味があった。

「エリクさんの期待に答えられるかは分かりませんが」

こほん、とセラは咳払いをして語り出した。

舞台は雪山の教会。吹雪に行く道を塞がれた旅人が、そこに迷い込んだ。
旅人は僧侶に歓待された。真冬だというのに暖かい。火が絶えず燃えている。しかし、どこか薄暗かった。
出された食事に口をつけようとした。しかし、口にした瞬間、強烈な吐き気に襲われる。おそらく、肉は腐っていて、ワインはドロッとした別の何かであった。
違和感を抱きつつも、外に出ることができず、泊まることにした旅人は夜中に目が覚める。
部屋の外から物音が聞こえた。恐る恐る、教会の中を歩く。暗がりの中、ぴちゃ、ぴちゃと水音がする。目をこらすと、そこでは僧侶が女性を抱えて「食事」をしていた。
ゆっくりと振り返る僧侶の口は赤く染まっていて……。

「ああ、あなたは明日の晩餐の予定だったのに、と」
「きゃあああっ!」

フィオナの声で、セラの語りが中断した。エリクに抱きついてしまったフィオナはそれに気づき、真っ赤な顔で離れてしまう。
エリクは、そんなフィオナを、あくまでも涼しい顔で見ていた。

「貴方はずいぶん余裕がありますわね」

フィオナは悔しげにエリクをにらむ。余裕、と聞いてエリクは自分が怖がっていないことを聞かれていると思った。
フィオナの意図は別の所にあったのだが。

「いや、なかなか恐ろしかったぞ」

とにかくセラの語りがうまい。
さすがは聖女を継ぐ者と称されるだけはある。宗教家は口がうまくなければやっていけない、エリクはそう思う。

ただ。

「私は死霊の類いのほうが怖いな。吸血鬼は……殴ったら、倒せそうじゃないか」

エリクの凄まじい発言に場が凍り付いた。

「えっと、それは……」
「どれだけ力業がお好きですの、貴方は」

呆れた視線を向けられるエリクは、自分の発言のどこがおかしいのか、本気で分からないのであった。



【本編はこちらから】


2025年12月21日日曜日

【SS】破滅への誘い【幻遊剣士】

 

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「ボクなら、お役に立てますよ」

空は、炎で赤く染まっていた。
かつては美しかった町が、今や見る影もない。何を間違えたのか、男は自答した。

ただ、欲しかっただけだ。
まるで赤子のように、見えるもの、触れるものを全て欲しがった。その結果、この町を手に入れた。そして、その欲望の結果、せっかく手に入れたものは全て灰になろうとしている。

「ああ、こんなところにいましたか」

顔をあげた。涼やかな声には覚えがある。

おまえは……。

もはや音にならない声がもれた。命も尽きようとしている。そんな男を見て、少年は瞳を輝かせる。

「ボクの言ったとおり、いい景色が見れたでしょう?」
あの日、何もなせぬままに朽ち果てようとしていた男に向けられた目と同じ笑みを少年は浮かべている。

男は、ようやく悟った。
あの日の笑顔は、天使の救いなどでは無く、破滅への誘いだったのだと。

【本編はこちらから】


【SS】予想外の赤【サマー・メモリーズ】

  似合わない……なんで!? 「あ、あれ?」  鏡に映る私は、目を見開いて固まっていた。 頬はカッと熱いし、変な汗まで出てきた。そこに映るのは、予想外の姿。思わず目をそらしたくなるほどの不出来。  お小遣い握りしめて買ってきた赤リップ。期待していたからこそ、なんかガッカリだな。 ...