2025年12月30日火曜日

【SS】初雪観測【星使いティンクル・ライツ】

 

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「……うん、がんばろ」

人混みを縫うように歩いた。皆が忙しそうに、通り過ぎていく。
「こんにちは」
声をかけても反応がない。ロォルのことなど、そこにいないものとして通り過ぎていく。

「……」

ロォルの足は止まった。慣れては来たが、時々寂しさを感じることがある。兄の言う通り、今の時代に自分を認識できる者は稀なのだろう。
擬態した姿なら、人間が視認できることをロォルは知っている。ここで化身したら、どんな騒ぎになるのだろうか。そんな破滅的な考えが、頭をよぎった。

「するわけないですけどね」

鳥の姿のまま元に戻れず、鬱々とした日々を過ごしたロォルは必要な時以外は鳥の姿になる気はない。

そのとき、頬に冷たさが走った。

「あっ」

見上げると、ちらちらと雪が降りてきていた。
久しぶりに見た。故郷の島にはよく降っていたが。

「……うん、がんばろ」

故郷を思い出したら、一緒に兄の顔を思い出した。この空の続くどこかで、自分と同じように頑張っているはずの兄の顔を思い出したら、元気が出てきた。

そんな兄に負けないように。

心なしか浮かれた足取りで、ロォルは再び人の波の中へ飛び込んでいった。

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星使い ティンクル・ライツ ~願いは流星とともに~/想兼 ヒロ - カクヨム

想兼 ヒロ


2025年12月28日日曜日

【SS】側にいてくれたから【星使いティンクル・ライツ】

 

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まいごのひよこ

「まいご?」
ライツが首を傾げると、黄色いふわふわも同じように首を傾げた。

ひよこはライツが近づいても逃げようとしない。むしろ、興味津々といった様子でくちばしをくっつけてくる。
「ははは、くすぐったい」
柔らかい羽毛がライツの肌をくすぐった。

「だいじょうぶ。きっと、見つけてくれるから」

ひよこの横に腰掛けたライツは、満面の笑みでそう言った。

自分も迷子になったとき、不安で仕方がなかった。自分が元の世界に戻れないことに気づいたとき、涙が止まらなかった。
そのとき、包んでくれた暖かい腕。側にいてくれた人が笑ってくれたからこそ、ライツはくじけずにすんだ。

今度はライツの番だ。

「♪~」

ライツは歌い出す。彼女の歌声は不思議な響きをもって、青い空へと広がった。いつしか、ひよこは心地よさで寝入ってしまっている。

そんな彼女の声に導かれてやってきた友人が、ひよこの持ち主を探して奮闘するのは、また別のお話。

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2025年12月26日金曜日

【SS】黒は死者に祈る色【星使いティンクル・ライツ】

 

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かつての経験だった少女のように

人の手が入らなくなってから、どれぐらいの年月が経っているのだろうか。美しかったであろう教会は、ところどころが朽ちてしまっていた。

「憐れなものだな」
信者に手入れされなくなった偶像は、元の形をとどめていない。信心を集めることのできなくなった者の末路がそこにある。

かつては敬虔な信者だった彼女も、少し思うことがある。
しかし、彼女は信じることを止めた。信じたところで、何も返してくれないだけでなく、過酷な運命を押しつけてくるのだから。

神はいない。そう思った方が楽だった。

「……」

彼女は指をパチンと鳴らす。刹那、彼女の周囲は闇に包まれ、背中にあった羽が隠れてしまった。代わりに身にまとうのは、黒い喪服。

――私では、あなたを幸せにできないから。

全てを憎んだ。人の悪意に傷つけられ、壊すことを望んだ。
しかし、あの日偶然が生んだ出会いが彼女の乾きを潤した。ようやく知れた母の姿。

(それでも、私はあなたと一緒にいたかった)

神を信じていなくとも。
最後まで自分のことを案じていた母を思うくらいはいいだろう。

彼女は目を閉じ、静かに祈ったのだった。

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【SS】かつて、穏やかで賑やかだった日【幻遊剣士】

 

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こちらは、どなたからのものでしょうか。

「そういえば、この地には聖誕祭の風習はないんですね」

マリアが急に呟いた。自分に向けられたものだ、と気づくのが遅くなったシルクは彼女の横に並んだ。

聖誕祭。
かつて、アルシリア大陸に存在したという聖人の誕生日を祝うお祭り。もともとが隣国である皇国の風習だ。そのせいか、ヴェレリア王国ではあまり有名な行事とはいえなかったりする。

(そういえば中央は祝ってたけど、そこまで大きくは無かったな)

だから、思い出すのは子どもの頃の話だ。当時のアルビス公爵、つまりはシルクとマリアの父は異国の風習に熱心だった。
相手を知るには文化を知ること。シルクはそんな父の教えを、今も胸に刻んでいる。

「そういえば、僕ら宛に来たプレゼント。宛名が書いてなくて困った時があったな」
「ふふふ。そうでしたね」

シルクのしみじみとした言い方に、マリアは思わず笑ってしまった。

今でも鮮明に思い出せる。
公爵家に届けられたプレゼント。ご子息、ご令嬢とあれば誰宛か分かるのだが、ただお子様にと言われたものは対処に困る。
自分に当てたものではない贈り物を、贈り主に確かめもせずに開けてしまって自分のものじゃなかったら……。
そうならないために、ああではない、こうではないとマリアと議論したのを昨日のように覚えている。

「結局、二人宛でしたね。議論したかいもなく」
「そうだったね」

そこで、マリアの顔に寂しさの色が浮かんでいることにシルクは気づいた。

「今は、戦時だから難しいけど」
 こちらを見たマリアに、シルクは微笑んだ。
「落ち着いたら、またお祝いしようか」

「……はいっ」

マリアの笑顔はまぶしかった。
本当にそんな日がくればいい。シルクは心から、そう思うのだった。

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【SS】予想外の赤【サマー・メモリーズ】

  似合わない……なんで!? 「あ、あれ?」  鏡に映る私は、目を見開いて固まっていた。 頬はカッと熱いし、変な汗まで出てきた。そこに映るのは、予想外の姿。思わず目をそらしたくなるほどの不出来。  お小遣い握りしめて買ってきた赤リップ。期待していたからこそ、なんかガッカリだな。 ...