☆ 長い袖に隠した、小さな秘密

「ひなちゃんって、いつも大きめの服を買うの?」
ふと、一緒に歩いていた友人にそんなことを聞かれた。
「ふぇ?」
特に意識をしていなかった話だったから不意をつかれた格好になる。きょとんとした私に、ことちゃんはちょっと慌てた様子を見せる。
「あ、ごめん。言いたくなかったらいいんだ、うん」
むっ。
その言い方に、私は引っかかりを覚えた。さては、ことちゃん。地雷を踏んだとか思ってるな。
いくらなんでも、身長が伸びることを期待してオーバーサイズを選んでるとか、さすがにない。私だって、これから劇的に背が伸びるなんて思っていない。
「……」
あー、うん。ほんとに無いかな?
ちょっとくらいはあってほしいんだけれども。望み薄だって確定すると、それはそれで凹む。
「なんで、急にそんなこと言うの?」
私はことちゃんに聞いてみる。
「ひなちゃん、いつも袖が余ってるから。こだわってるのかなって」
私が極力普通に話しかけたからか、ちょっと後ろに引いていたことちゃんは、また前のめりになっている。前から思ってたけど、犬みたいだよね、ことちゃん。
「うーん」
言われてみて、自分の袖を見る。制服の上から着ているカーディガン。それは手が隠れるくらいに、袖が長い。
意識してなかったけど。言われてみると、確かにそうか。前にことちゃんと一緒に出かけたときの服もそうだったかな。
「ほら、夏も半袖着ないでしょ。ちょっと気になっちゃって」
……そういえば、そうだ。私は夏も長袖だ。それも丈が長めの。今年の夏は辛かったな、暑くて。
ことちゃんからすれば、我慢して着ているように見えたんだろう。実際、我慢はしてたけど。そっか、そう言われるとこれはこだわりか。
ただ、どうしてかと言われると、ちょっと困る。おしゃれでやっているわけじゃないし、ちゃんとした理由はあるのだけれど、それを口にするのはためらわれた。
「そうだね。私、半袖嫌いなんだ」
とりあえず、好き嫌いの話にすることで、ごまかすことにした。
「そっか」
嫌い、という強い言葉をつかったからか、ことちゃんは残念そうな顔をして引っ込んだ。しばらく黙っていると、隣でぶつぶつとつぶやいている。
「せっかくひなちゃんに似合いそうな服見つけたのに……」
「着ないからね、私」
また着せ替え人形にするつもりだったのだろうか、ことちゃん。あれはごめんだ。単純に恥ずかしい。
「えー」
おもちゃを取り上げられたような顔をしていることちゃんに私は大きくため息をついた。
でも、そうだな。
私は自分の袖を見る。手が隠れている。それを、そっとまくってみた。
「うっ」
ずきん、と頭が痛んだ。
家の中だと、平気なんだけどな。外で、不意に何もないはずの自分の手を見ると、頭痛がするんだ。冬じゃないのに手袋をするのはおかしいから、袖でごまかしている。
「ひなちゃん?」
「うん?」
心配そうに覗き込んだ友人から逃れるように、私はまくったばかりの袖をまた指先まで引き下ろして、微笑んだ。自分でも言語化できないことを聞かれても答えられない。
たぶん、何か思うことはあるんだろうことちゃんは、それでも微笑み返して黙ってくれた。
いつか、この袖に隠した痛みの意味を知ることはあるんだろうか。
私は、ことちゃんに見えないように小さく息を吐いた。
本編はカクヨムコン向けの新作として12月から連載予定です。
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それでは、また会いましょう。