2025年12月24日水曜日

【SS】夢のかたまり【サマー・メモリーズ】

 

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生クリームはたっぷりと

ケーキには夢がつまっている。

「確かに」
ポスターに書かれたコピーに、あたしは素直に頷いた。思い出すのは、小学生の頃だ。

エプロンをつけて、気分はパティシエ。
ボウルいっぱいに泡立てた生クリームをスポンジに塗りたくった。均等に、なんて考えもなくて、とにかくベタベタとやっていった結果、とても分厚い生クリームの層ができあがった。
今考えると不格好だけど、あたしは嬉しくてしかたのなかった。食べることしか知らなかったケーキが自分の目の前で形になっていくんだ。

湧き上がる万能感。まさしくそれが子どもにとっての「夢」なんだろうな、と思う。

そんなに楽しかったのに。

「なんで、あまり作ってないのかな?」

思い出せるのは、その一回だ。なんで、あたしはあれ以降作らなかったのか。

「うわっ」

一気に血の気が引いた。思い出したのは、お母さんの鬼の形相だ。
確か、あたしは自分の顔だけじゃ無く、キッチン中を生クリームだらけにしたのだ。そのあと、泣きながら掃除したことという余計な思い出まで蘇ってしまった。

「ははは」
苦笑い。
「でも、今年はまた挑戦してみるのもいいかな?」

わくわくしてきた。今と昔では夢も違うけど。
今のあたしの夢をつめこんだケーキをつくるのも、悪くないんじゃないかな?

【本編はこちらから】


2025年12月23日火曜日

【SS】吸血鬼の晩餐【魔王無き世の英雄譚】

 

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「そして、彼はゆっくりと振り返って、こう言うんです」

「な、なかなか骨のあるお話でしたわね」

談話室をふらふらと歩いていたら、聞き覚えのある声がきこえてきた。エリクが振り返ると、そこにはよく知った顔があった。

「フィオナ。セラもここにいたのか」

背後から声をかけると、ビクッと金色の髪が揺れた。

「あ、あら。エリクさん。ご機嫌麗しゅう」

振り返ったフィオナがいつものように挨拶しようとしている。しかし、その蒼い目は見事に泳いでいた。
そこに動揺を感じ取ったエリクは、軽く会釈したのちにセラの方へと向き直る。

「どうしたんだ、こいつ」

エリクの指摘にセラは思わず、くすくすと笑い出した。

「フィオナさん、わたしが話したお話が怖かったようで」
「こ、怖くなどありません。どうして、わたくしがそのような作り話を怖れなければいけませんの?」

エリクが驚くほどの早口で、フィオナは弁明する。言えば言うほど、自分の首を絞めているようなものだが。
「そんなに怖いのか。少し興味あるな」
エリクは空いている席に座ってセラを見る。横から「だから怖くなど」というフィオナの声が聞こえてくるが、エリクはあえて無視をした。

プライドの高いフィオナのことだ。何を言っても彼女を傷つける。
それはそれとして、こんなにもフィオナを動揺させる話とやらに興味があった。

「エリクさんの期待に答えられるかは分かりませんが」

こほん、とセラは咳払いをして語り出した。

舞台は雪山の教会。吹雪に行く道を塞がれた旅人が、そこに迷い込んだ。
旅人は僧侶に歓待された。真冬だというのに暖かい。火が絶えず燃えている。しかし、どこか薄暗かった。
出された食事に口をつけようとした。しかし、口にした瞬間、強烈な吐き気に襲われる。おそらく、肉は腐っていて、ワインはドロッとした別の何かであった。
違和感を抱きつつも、外に出ることができず、泊まることにした旅人は夜中に目が覚める。
部屋の外から物音が聞こえた。恐る恐る、教会の中を歩く。暗がりの中、ぴちゃ、ぴちゃと水音がする。目をこらすと、そこでは僧侶が女性を抱えて「食事」をしていた。
ゆっくりと振り返る僧侶の口は赤く染まっていて……。

「ああ、あなたは明日の晩餐の予定だったのに、と」
「きゃあああっ!」

フィオナの声で、セラの語りが中断した。エリクに抱きついてしまったフィオナはそれに気づき、真っ赤な顔で離れてしまう。
エリクは、そんなフィオナを、あくまでも涼しい顔で見ていた。

「貴方はずいぶん余裕がありますわね」

フィオナは悔しげにエリクをにらむ。余裕、と聞いてエリクは自分が怖がっていないことを聞かれていると思った。
フィオナの意図は別の所にあったのだが。

「いや、なかなか恐ろしかったぞ」

とにかくセラの語りがうまい。
さすがは聖女を継ぐ者と称されるだけはある。宗教家は口がうまくなければやっていけない、エリクはそう思う。

ただ。

「私は死霊の類いのほうが怖いな。吸血鬼は……殴ったら、倒せそうじゃないか」

エリクの凄まじい発言に場が凍り付いた。

「えっと、それは……」
「どれだけ力業がお好きですの、貴方は」

呆れた視線を向けられるエリクは、自分の発言のどこがおかしいのか、本気で分からないのであった。



【本編はこちらから】


2025年12月21日日曜日

【SS】破滅への誘い【幻遊剣士】

 

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「ボクなら、お役に立てますよ」

空は、炎で赤く染まっていた。
かつては美しかった町が、今や見る影もない。何を間違えたのか、男は自答した。

ただ、欲しかっただけだ。
まるで赤子のように、見えるもの、触れるものを全て欲しがった。その結果、この町を手に入れた。そして、その欲望の結果、せっかく手に入れたものは全て灰になろうとしている。

「ああ、こんなところにいましたか」

顔をあげた。涼やかな声には覚えがある。

おまえは……。

もはや音にならない声がもれた。命も尽きようとしている。そんな男を見て、少年は瞳を輝かせる。

「ボクの言ったとおり、いい景色が見れたでしょう?」
あの日、何もなせぬままに朽ち果てようとしていた男に向けられた目と同じ笑みを少年は浮かべている。

男は、ようやく悟った。
あの日の笑顔は、天使の救いなどでは無く、破滅への誘いだったのだと。

【本編はこちらから】


2025年12月20日土曜日

【SS】ドラゴン【シルヴァランド物語】

 

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真っ赤な巨体で、口から火を吐いて……。

霊峰トラウゼ山。
そこに巣くう神魔七柱の一、ヘルドラが次の討伐対象だ。

(登山かぁ)

山頂、と聞いて雄輝はすぐに憂鬱な気分になる。クレアみたいに羽が生えていればな、と少し思う。しかし、すぐに思い直した。
そういえば、クライアスが言っていた。クレアは優雅に飛んでいるように見えて、必死に空中を走っているだけなのだ、と。

すっかり忘れていた。
クレアが普段使っている透明な足場を、実際に渡ったことがあるというのに。

「それで、そのヘルドラってのは、どんなやつなんだ?」

気を取り直して、雄輝は問う。その声に、クレアは嬉しそうに振り返った。雄輝が積極的になってくれているのが嬉しいようだ。

「あのですね、見た目は真っ赤でおっきなトカゲなんです」

クレアが身振り手振りを交えて、雄輝に説明する。うんうん、と頷いている雄輝の頭に一つの像ができあがってきた。

「それって、『ドラゴン』みたいなやつ?」
雄輝が思い浮かべたのは、ファンタジーを題材にしたゲームならおなじみのモンスターだった。クレアが一生懸命話していた羽を持つ巨大なトカゲで口から火を吹く怪物について、雄輝はそれしか想像できない。

それなのに。

「どらごん?」

クレアは口をポカンと開けて呆けていた。どうやらドラゴンという言葉が通じないらしい。

「その、どらごんが何なのかは分かんないんですけど、ヘルドラには鋭い牙があってですね……」

クレアは熱心に説明を続ける。しかし、どれだけ言葉を加えても雄輝の中に生まれたドラゴンのイメージが崩れることはない。むしろ、さらに強調されていく。

(言葉って便利なようで、不便なんだなー)

身振り手振りも大きく、一生懸命話すクレアをどこか冷めた目で見ながら、変なところで異世界を実感する雄輝であった。

【本編はこちらから】


【SS】予想外の赤【サマー・メモリーズ】

  似合わない……なんで!? 「あ、あれ?」  鏡に映る私は、目を見開いて固まっていた。 頬はカッと熱いし、変な汗まで出てきた。そこに映るのは、予想外の姿。思わず目をそらしたくなるほどの不出来。  お小遣い握りしめて買ってきた赤リップ。期待していたからこそ、なんかガッカリだな。 ...