2024年6月10日月曜日

【小説】陽を往く者


  満月が出ているというのに、足下はひどく暗い。目の前の闇から、何者かが覗いているような気がして、その度に少女の足は止まりそうになる。

 だめだ、走り続けないと。


 息がうまくできない。あれから、どれくらい走ってきたのだろう。体は悲鳴をあげている。

 こんなことなら、いくら締め切りが近いからといって、夜遅くまで学校に残るんじゃなかった。

 少女は今更、己の選択を公開していた。


 普段と同じ帰り道。そう、あの曲がり角を行くまではいつもと同じだった。

 ふらふらと前を歩く人がいた。その人が急に生け垣に倒れ込んだのを見て、驚き近寄った。大丈夫ですか、と声をかけながら。


 しかし、すぐに彼女の足は止まる。体はそのまま生け垣に突っ伏しながら、首だけが……そう、首だけ後ろに回して彼の視線が彼女を突き刺した。

 生気を失った顔に、目だけが血走って。大きく開けた口に、異常に大きな犬歯が光る。


 そして、確かに聞こえた。彼はこう言ったのだ。

 血が欲しい、と。


(まさか、あれが噂の吸血鬼?)


 少女は昼間にしていた級友達との話を思い出す。

 昨日、変わった死体が見つかった。体は綺麗で、外傷と言えるのは首筋の傷跡だけ。それなのに、全身から一切の血液が失われていた、と。

 そんなの吸血鬼じゃない、と高い声で彼女達は笑っていた。


 見間違いならどれだけいいだろう。酸素の足りない脳が、それでも思い出すのを止めてくれない。

 あの、身の毛もよだつ男の顔を。


「あっ」


 夢中で走ってきたせいか。彼女は袋小路に迷い込んでしまう。目の前には壁だ。先には進めない。

 戻らなければ、と考える頭に足音が響く。


(来た!?)


 一際、鼓動が大きくなった。どうしよう、と悩んでいる間に足音は近づいてくる。もう逃げられない。


「そうだ」


 少女はロザリオを取り出す。祖母から譲り受けた由緒正しきもの。きっと、この窮地から救ってくれる。

 まさに、天に祈る気持ちで十字架を握りしめると、彼女は近づいてきた者に向けて突き出した。


 怖れで、ぎゅっと目をつむっている。そんな彼女の耳に小さく嘆息の音が聞こえてきた。


 あれ、と思うのも束の間。

 命綱のように握りしめた大きめの十字架を、目の前の彼はひょいっとつまみ上げたのだ。


「あっ」


 そこで初めて前を向いた。


「お嬢さん、覚えておくといいぜ」


 そこにあったのは、あの恐ろしい形相ではない。


「こういうのを嫌がるのは、それこそお嬢さんみたいな信心深い者の成れの果てさ」


 いつのまにか、満月が満月らしく夜を明るく照らしていた。その月の光が、彼の金色の髪を闇の中で輝かせていた。

 年は少女よりも少し年上に見えた。その白い肌は海外の人のようでいて、日本人の血も感じさせる顔立ちをしている。


「ほれ」


 彼はロザリオを雑に放り投げる。少女の固まった体はようやく動き出す。慌てて、それを地面に落ちぬように受け止めた。


「吸血鬼じゃ、ないの?」

 動揺が続く彼女は、自分でも意味の分からないことを口走る。何を言い出すんだろうか、少女は自分で自分を叱りつけたい気分になる。

 気を悪くしただろうか、そんな思いで上目をつかう彼女の眼前で、彼は予想外の反応をする。


「ん~にゃ」

 悪戯な笑みを浮かべ、首を横に振ったのだ。


「はっ?」

 彼の返事に、脳の処理が追いついていない彼女は見事にフリーズした。そんな彼女を見て、彼はケラケラと大きな声で笑っている。

「ま、吸血鬼にも色んなやつがいるってことだ。覚えとけ」


 そのまま立ち去ろうとする彼を、硬直したまま見送っている少女。


 このままでいいのだろうか、とふと思った。関わらない方がいいと思う冷静な自分と、この出会いにわくわくしている不謹慎な自分が彼女の中にいた。

「えっと、あなたは何なの?」

 それで絞り出したのは、やっぱり意味の分からない問いだった。彼女はもう、いっぱいいっぱいなのだ。


 そんな彼女を見て、驚く彼は目を丸くしてた。しかし、すぐに柔和な笑みを見せると、こう言った。


「俺は陽を往く者。吸血鬼を屠る、吸血鬼さ。今宵は何とか助けに入れたが、今度はそうはいかないぞ。夜道には気をつけて」


 今度こそ闇に消えていく彼の背中を、見えなくなるまでずっと見送った。


 また会えるだろうか。

 少女はそんな思いで、目を輝かせていた。


☆ よかったら、こちらも読んでください ☆

2024年6月9日日曜日

【漫画感想】孔明のヨメ。 16巻



孔明と月英、変わり者の夫婦の結婚から始まったこの漫画ももう16巻。

ついに、三国志でおそらく1番有名な「赤壁の戦い」が描かれます。


史実と虚実は織り交ぜているかと思いますが(不勉強ですみません)、孫権との同盟以降、その中でも虚実よりな孫尚香の暴れっぷりが見物な前巻までのお話でした。


情報を使って戦っている孔明がとてもかっこいい。


そして、今巻でついに激突です。


個人的に1番印象的だったのは、圧倒的な敵として描かれてた曹操の油断とそれによって招いた危機に気づいた場面です。


この漫画、キャラクターが生き生きとしてるのが魅力なんですが曹操のあの表情は初めてだったのでは無かろうか。


ちなみに自分の三国志知識は「三国無双」「レッド・クリフ」ぐらいなので、ほぼゼロです。


それでも面白く読めるんだから、作者さんは凄いなぁ。

(おまけ漫画で書かれる取材量に脱帽です)


☆ もしよかったら読んでみてください ☆

2024年6月8日土曜日

【自作紹介】星使いティンクル・ライツ~願いは流星とともに~

 

「流れる星のキセキをここに!」

妖精、それはかつて人の側にあった者達の名。今は遠き記憶の存在となっている者達。

星妖精の少女、ライツの願いは「友達をつくること」。思いがけず飛び込んでしまった人の住む地上界で一人の少年と出会う。

彼の名は洋介。人ではない「友達」と過ごした思い出を胸に、いつか再会できることを夢に見ていた。

二人が出会った時、新たな星使い“ティンクル”の伝説が始まる……。

「何か代表作みたいに言われてます」←笑われた

おそらく、自分の書いてきた話で1番読まれたお話です。

妖精界という、人間の住む世界とは少し違った場所で暮らす星妖精の少女、ライツ。

不慮の事故で彼女の知らない人間の世界へと落っこちたところで一人の少年と出会います。

その少年、洋介は初めて見る彼女に驚きこそすれ、すんなりとその存在を受け入れます。


彼がライツを恐れない理由。

それは幼い頃の思い出が原因なのです。


ネタ出しは格闘ゲーム。

そんな感じで始まるお話ですが、キャラクター先行で考えたもので、もともとは格闘ゲームの投稿キャラクターをイメージしていました。

だから、バトル有りです。

本当に書きたい部分はそこだったりします。


一昔前の少女漫画?

お話を書くきっかけは当時他の作品で言われた感想です。

どうも、自分の文体が「一昔前の少女漫画」っぽいと。

言った方は褒め言葉な感じでしたが、ちょっとチクリと刺さったのを覚えています。


「だったら、そういうの書いてやろうじゃないか」

日曜朝をイメージして書き始めましたが、どんどん深夜に近づいていく(笑

自分、そういうところあります。

コメディチックなのを目指して、書けば書くほどシリアスに寄っていっていったり。


冒頭のあらすじを読んで気になった方がもしいれば、お気軽に読んでいただけると嬉しいです。


☆ カクヨム ☆

メイン連載。


☆ Kindle ☆

Kindle unlimitedに加入している方は無料でダウンロードできます。


☆ 文庫 ☆

イベントで頒布したものです。

2024年6月6日木曜日

隣にはそれが好きな人がいるかもしれないという話【プロ野球を観戦して】

まけほー。

6月6日、ナイトゲーム。

中日ドラゴンズVS福岡ソフトバンクホークスの試合をバンテリンドームナゴヤに見に行きました。

いやー、ソフトバンクさんは強かった。

試合内容で色々思うところはあるんですけど、それはいったん飲み込んで、試合中にちょっと思ったことを書き残しておこうかなと思います。
(ハリーホークさんはかわいかっこよかった。普段見られないマスコットが見れるのも交流戦の魅力ですね。)

記事にもなっていたので、間違いなくこの試合の分岐点になったのが山本選手のエラーです。

それに関しては「アウト取れてたらこの回終わったのになぁ」ぐらいは、僕も思いましたよ。

ただ近くにいたお客さんがずっと「おまえのせい」とか「まだ打席立たすのか」と彼が試合に出続けている間、ずっとうるさくて嫌な気分になりました。

一人言のつもりだろうが、聞こえてるからな、あんた(イライラ)

最近、SNSの中日ドラゴンズに関する呟きを見ないようにしています。

もともと他人が怒られている声にも萎縮してしまうくらいには気が小さいので罵倒って文字情報を見るだけで自分にダメージを負うんですよね。

まぁ、思うのは自由だし言うのも自由だと思うんですけど「それ、批判のつもりだろうけど誹謗中傷になってるからな」と言いたくなることもしばしばで。

誰もが見れる、誰かに聞こえる場で言うのであれば感情を落ち着けてから言いましょうよ、ほんと。

それが好きな人が隣にいるとか、考えないんでしょうかね。

ちょっと前に肩身の狭いビシエドファンの方の話を見ましたけど、たぶん、周囲の声がうるさかったんでしょうね。

ちなみに自分は球団ファンというよりも選手のファンに近いです。

勝ち負けよりも、「ここで打たないと一軍定着できないぞ」とかいう目線で見てます。

……親か(笑)

だから試合に出ている人はみんな活躍して欲しいですし、活躍してお給料上がって欲しいです(笑)

今年、フリーエージェントになるであろう選手にも「この成績じゃあ、良い条件出してもらえないんじゃ無かろうか」と余計な心配をしています。

まぁ、結局、楽しみ方は人それぞれ。

チームが強くなるために提言するのは、自分は「何様だ」とは思わないですし、大いにやっていただいてけっこう。

ただ、言葉には気をつけて欲しいというだけです。

届くはずの言葉も届かなくなりますよ。

次行くときは、こういう思いにならないといいんだけどなぁ。

2024年4月19日金曜日

プロ野球観戦記録【4月17日 中日ドラゴンズ対東京ヤクルトスワローズ】

 バンテリンドームナゴヤに行ってきました。

今日(4月18日)は悔しい試合だったみたいですが、前日は歓喜の声をあげてきました。

前日にずっと3番三塁としてチームを盛り上げてきた高橋周平選手が負傷で抹消。

たぶん、三塁はカリステ選手だろうけど打順はどうなるかな……と思っていたら上林選手が抜擢されていました。


演出かっこいいよね。

前回来た時は試合開始時間に間に合わなかったので見れなかったんですよ。

見れて良かった。

試合は重苦しい展開が続いていましたが、細川選手のあわやホームランの二塁打のあとにカリステ選手の決勝タイムリー。


挟まれたのはご愛敬。

ただヒーローインタビュー中に何度も挟まれたシーンをビジョンに映されるのは、ちょっとかわいそうだけど面白かった。

最後はライデル・マルティネス選手で〆。


この人が登板したら、相手はノーチャンスです。


今年はほんと、調子良い。

昨年は一度しか勝ち試合を見れなかったので、すでに勝ち試合を見れた数は昨年を超えました。

どらほーっ!




2024年4月6日土曜日

世界を変えるのに三分もいらない/ウマ娘 シンデレラグレイ 14

 「私」は、だれ?

※あまりネタバレ気にしないです。

まるまる一巻ジャパンカップ!

オグリキャップが二度目のジャパンカップに挑むお話。

よくネタにされる「この漫画はプリティではない」を全面に押し出したものでした。

なにせ、メインのキャラが海外馬モチーフで漫画家さんがデザインされたやつだから良い意味で好き勝手やっていて大好きです。

前回のジャパンカップもかなり好きだった。


しかし、概ね史実通りとはいえ表紙の「フォークイン」の回想シーンはとてつもなく重かった。

「私」は、だれ?

だれも「私」を見ていない。

だからこそ、オグリキャップの「フォークインッ!」っていう見開きでの叫びは神がかってましたね。


ちなみにこの漫画、史実だと3分を一巻使ってやってます。

あっという間だったな。


2024年4月4日木曜日

プロ野球観戦記 4月4日 中日VS巨人

【#一緒にどらほー】左ひじ手術から556日ぶりの白星 #大野雄大 投手と歓喜の共有🎉 #中田翔 選手のチームを一つにした声出しにも接近📹


いや、最高でした。
今季初の観戦でしたが、去年は一度しか見れなかった勝ち試合を見れて良かったです。

それも大野選手の復帰登板で。
投げたくて投げたくて仕方の無かった一年を感じることのできる飛ばしっぷりで、おそらく五回でバテてしまったんでしょうが、それまでは完璧なピッチングでした。

それと昨年と違うのは三塁ですね。
去年は打球が飛ぶとヒヤヒヤしていましたが、今日はわくわくしました。

立浪監督も言ってましたが、高橋周平選手の三塁守備は十二球団一だと思います。

細川選手のホームランも見れて、言うこと無しです。
今年はいいところまで行ってほしいなぁ。

(おまけ)
公式動画の声出しで大島選手の「まだ目が開いてないの、いるよ」と言われてたのはきっと木下選手
今日もバッティングでは寝てたかもしれませんが、ナイスリードでした。
打棒のお目覚めも期待しています。


【SS】予想外の赤【サマー・メモリーズ】

  似合わない……なんで!? 「あ、あれ?」  鏡に映る私は、目を見開いて固まっていた。 頬はカッと熱いし、変な汗まで出てきた。そこに映るのは、予想外の姿。思わず目をそらしたくなるほどの不出来。  お小遣い握りしめて買ってきた赤リップ。期待していたからこそ、なんかガッカリだな。 ...