
「むぅ」
部活動のために美術室に来たら、膨れたまんじゅうが座っていた。
あの頬、突いたら破裂しそうだな。
「どうした、都築。イメチェンか?」
俺の台詞に、さらに機嫌が悪くなったのか、都築の顔はますますふくれがって餅みたいになっていた。
「センパイも思いますよね、こんなの可愛くないって!」
都築が着ていたのは、古びた白衣だった。絵の具汚れが酷く、もう洗っても落ちないほどにこびりついている。
色とりどりのそれは、混ざり合ってくすんでしまっている。
可愛いか、可愛くないかと言えば。
まぁ、ぶかぶかすぎる袖は可愛いと言えるんじゃないか、都築。
近くに先生が寄ってきたので、俺は聞いた。
「こいつ、どうしたんですか?」
「ああ、都築さんね」
都築の白衣。先生が言うには、都築のあまりの袖の汚し方に業を煮やした部長が着せた物らしい。
ああ、時々酷いよな、こいつ。集中すると、周りが見えなくなるから汚しまくって。
俺が言えたことじゃないけど。
静谷に制服の袖の汚れを指摘されて、あやうくその場で脱がされかけたし。いくら幼なじみと言っても、少しは恥じらいをもってほしい、ほんと。
「むぅ」
とりあえず、都築はこの仕打ちに納得がいってないようで。ずっと、ふくれていた。
……まぁ、部長の優しさだと思うぞ。おまえ、寮生だし、汚すと洗濯大変だろ。
「俺はそれ、可愛いと思うけどな」
「えっ」
ぱぁ、と急に都築の顔が明るくなった。
「センパイがそう言ってくれるなら、このままでもいいかな~」
急に筆が動き出した都築に俺は小さく息を吐いた。
「ありがとうね、沖田くん」
「いえいえ」
こんなことなら、お安いご用だ。あんまり、イライラさせたくないし、都築のこと。
俺は、にこにこ顔でキャンバスに向き合う都築を見て微笑んだ。
そうそう、おまえは楽しんでくれればいいんだよ、描くことをさ。
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第1話 夏眠暁を覚えず
サマー・メモリーズ~モノクロームの水平線~/想兼 ヒロ - カクヨム
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