
窓をうつ雨音に、私は顔をしかめた。
「ああ」
これは、だめだ。
私は鞄からプレイヤーを取り出した。年季の入ったそれは、金属製なのに温かみすら感じる。私にとっての、お守りの一つ。
チープなイヤホンをプラグに差し込んだ。両の耳を塞いだ後に、ボタンを押した。
「ふぅ」
流れてきた曲が耳になじんだ。流行りの曲は分からない。幼い頃から、何度も聞いてきた曲しか、このプレイヤーには入っていない。
それが、とても心地よかった。
一人になると、心が騒ぐときがある。何か、せきたててくるように。私を、非難するように。心に生まれた、もやのようなものが私を包む。外の音、全てが攻撃してくるかのような錯覚を覚える。
そんなとき、私はこうして外界から離れることを選ぶのだ。
このイヤホンは、魔法のように世界を遮断してくれる。
ざわついていた心が静かになっていく。
雨音も微かに、窓の外の景色は美しく流れていく。
「……ええ、頑張りましょう。せっかく、日本に帰ってきたのだから」
静かになった、もう一人の私に話しかけた。
目的地まで、あと十五分。私は私に向き合うことにした。
誰にも邪魔されない。馴染みの曲に包まれた聖域の中で。
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第1話 夏眠暁を覚えず
サマー・メモリーズ~モノクロームの水平線~/想兼 ヒロ - カクヨム
想兼 ヒロ
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